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sFlt-1/PlGF比
(エスフルト・ワン/ピー・エル・ジー・エフ ヒ)

sFlt-1/PlGF比

おさえておきたいPOINTS

  • sFlt-1/PlGF比は、妊娠高血圧腎症(PE; preeclampsia)の短期発症予測の補助となる新たなマーカーです。
  • 2019年4月に日本初の体外診断用医薬品として承認され、2021年7月に新規保険収載となりました。
  • sFlt-1/PlGF比によって、ハイリスク妊婦の早期トリアージによる高次医療施設との連携や短期間の外来管理など、早期医療介入が可能になります。

妊娠高血圧腎症とsFlt-1/PlGF比について


  
妊娠高血圧腎症(Preeclampsia;PE)

  • PEとは妊娠高血圧症候群(HDP)と呼ばれる疾患の一つです。HDPは全妊婦の5%が罹患すると言われており、HDPのうち60%程度をPEが占めるとされています1
  • 発症から増悪までの期間が極めて短く、重症化の場合は、けいれん発作(子癇)や肝臓や腎臓の機能障害、常位胎盤早期剥離、HELLP症候群など緊急を要する合併症を引き起こし、母子ともに危険な状態になることがあります。
  • 治療の基本は安静と入院で、根本的治療はターミネーション以外にないとされており、早期に医療介入し発症や病態の悪化を抑制することが求められています。
  • これまでPEに対する特異的な検査はありませんでしたが、PEの短期発症予測の補助マーカーとして「sFlt-1/PlGF⽐」に着⽬し、より特異的かつ客観的な指標として「sFlt-1/PlGF比」を用いることで、PEハイリスク妊婦の早期トリアージによる⾼次医療施設との連携や短期間の外来管理など、早期医療介⼊が可能になります。

 

  妊娠高血圧腎症の病態形成に関与する「sFlt-1」と「PlGF」の比率

  • 胎盤形成に関わる物質である血管新生因子の「PlGF」、およびその阻害因子である「sFlt -1」が、PEの病態形成に関与していることが明らかになっています2
  • また、PEを発症する妊婦は、発症前に血清中の「sFlt-1」と「PlGF」のバランスが崩れ「sFlt-1/PlGF比」が上昇することから、「sFlt-1/PlGF比」がPEの発症を予測する指標として注目されています3
妊娠高血圧腎症の病態形成に関与する「sFlt-1」と「PlGF」の比率

sFlt-1/PlGF比の保険収載内容

   
区分 D015 血漿蛋白免疫学的検査
測定項目 sFlt-1/PlGF比
測定方法 ECLIA法
点数 340点
対象患者 妊娠18週~36週未満のPEが疑われる妊婦 ※留意事項参照
留意事項
本検査は、血清を検体とし、ECLIA法により可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt-1)及び胎盤増殖因子(PlGF)を測定し、sFlt-1/PlGF比を算出した場合に算定する。


本検査は妊娠18週から36週未満の妊娠高血圧腎症が疑われる妊婦であって、以下のリスク因子のうちいずれか1つを有する場合に、一連の妊娠につき1回に限り算定できる。
なお、リスク因子を2つ以上有する場合は、原則として当該点数は算定できない。
(イ)収縮期血圧が130mmHg以上または拡張期血圧80mmHg以上
(ロ)蛋白尿
(ハ)妊娠高血圧腎症を疑う臨床症状または検査所見
(ニ)子宮内胎児発育遅延
(ホ)子宮内胎児発育遅延を疑う検査所見


本検査を算定する場合は、イのリスク因子のいずれに該当するかを診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。また、イの(ハ)又は(ホ)に該当する場合は、その医学的根拠を併せて記載すること。なお、医学的な必要性から、リスク因子を2つ以上有する妊婦において算定する場合、又は一連の妊娠につき2回以上算定する場合は、その詳細な理由を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。

臨床試験成績

 

 sFlt-1/ PlGF比のカットオフ値は「38」

国際共同研究PROGNOSIS4において、臨床的にPE発症のリスクが高いと考えられる妊婦を対象に発症予測性能を評価されました。結果としてsFlt-1/ PlGF比「38」がカットオフ値として有用な的中率を持つことがヨーロッパならびにアジア5で確認され、比が38以下はその後1週間でPE非発症( 陰性的中率99.3%)、比が38を超えた場合には以後4週間以内のPE発症( 陽性的中率36.7%)の予測補助となる可能性が示唆されています。

「sFlt-1/ PlGF比」のカットオフ値は「38」

  PROGNOSIS(欧州での検討結果)4

国際共同研究PROGNOSISにおいて、臨床的にPE 発症のリスクが高いと考えられる妊婦(妊娠週数24 週+0 日~36 週+6 日)1050 例を対象に、PE/子癇/HELLP 症候群に対する*sFlt-1/PlGF比の発症予測性能を評価しました。本試験はDevelopment(n=500)とValidation(n=550)の2つのコホートから構成されています。

*薬事/保険の対象はPEのみです。

Development コホートにおいて、以下のカットオフ値が選択されました。

  • sFlt-1/PlGF 比≦38: 1 週間以内のPE の非発症予測
  • sFlt-1/PlGF 比>38: 4 週間以内のPE の発症予測

疾患群および対照群における、1週間および4週間以内のsFlt-1/PlGF比分布

1週間以内のsFlt-1/PlGF比分布
4週間以内のsFlt-1/PlGF比分布

疾患群および対照群におけるsFlt-1/PlGF比カットオフ比38感度・特異度

疾患群および対照群におけるsFlt-1/PlGF比カットオフ比38感度・得意度:1
疾患群および対照群におけるsFlt-1/PlGF比カットオフ比38感度・得意度:4週間以内
疾患群および対照群におけるsFlt-1/PlGF比カットオフ比38感度・得意度:1週間以内

PROGNOSIS ASIA(日本を含むアジア諸国での検討結果)5

アジア6 か国において、臨床的にPE 発症のリスクが高いと考えられる妊婦(妊娠週数20週+0 (日本は18週+0) ~36 週+6 日)700 例を対象に、PROGNOSIS で設定されたカットオフ値による本品のPE/子癇/HELLP 症候群の発症予測に対する性能を評価しました。

その結果、以下の結果が得られました。

疾患群および対照群におけるsFlt-1/PlGF比カットオフ比38感度・特異度、比の分布

疾患群および対照群におけるsFlt-1/PlGF比カットオフ比38感度・特異度、比の分布:1
疾患群および対照群におけるsFlt-1/PlGF比カットオフ比38感度・特異度、比の分布:3
疾患群および対照群におけるsFlt-1/PlGF比カットオフ比38感度・特異度、比の分布:2

参考文献

  1. 妊娠高血圧症候群の診療指針2021-Best Practice Guide-
  2. Hiroyuki Seki. Acta Obstet Gynecol Scand. 2014; 93: 959-964.
  3. Richard J. Levine, M.D. et al. N Engl J Med. 2006; 355:992-1005.
  4. Harald Zeisler, M.D. et al. N Engl J Med. 2016; 374:13-22.
  5. Xuming Bian et al. Hypertension. 2019; 74:164-172.

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