HIVはレトロウイルスに属し、後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こす変異しやすいウイルスです。主に2つのタイプ(HIV-1およびHIV-2)があり、これらのうちHIV-1の方が広く世界に分布しており、異なるグループ(M、N、OおよびP)およびサブタイプに分類されています(図1)。HIV-2はアフリカ以外ではあまり見られません。診断薬は可能な限り感染早期にすべてのグループ、サブタイプと変異株を検出できなければならず、またHIVの遺伝的多様性も考慮する必要があります。血清学的に検出可能なHIV-1感染のマーカーとしてp24抗原があります。
各地の有病率とサブタイプの分布は図2の通りです。主なサブタイプの大部分はアフリカにあり、HIVがこの大陸を起源としていることと一致しています。
HIV感染は以下のような体液の接触によって起こります(図3)。
なおトイレの共用、食器の共用、蚊の媒介、握手などでは感染しません(図4)。
HIV感染後、治療をしなかった場合の平均生存期間は9年~12年と推定されています。HIVは免疫系の重要な細胞に感染し、CD4+T細胞の低下を引き起こします。CD4+T細胞の数が危機的なレベルにまで低下すると免疫力は失われ、日和見感染をしやすくなり、後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症します。
HIV感染には3つの段階があります(図5)。
感染者の50~70%がインフルエンザや風邪のような症状を示します。p24抗原は急性期の抗体が検出される前にしばしば検出されますが、持続せず短い期間しか検出されません。HIV-RNAはp24抗原の平均1週間目前に検出されます。抗HIV抗体は急性期の終わりに検出され始めます。IgMは通常、IgG抗体が出現する前に一時的に検出可能となり、セロコンバージョンの早期検出に重要です。
この期間は無症候ですが、血漿およびリンパ組織にはしばしば高濃度のHIVが存在します。またIgGが産生され感染は制御されています。ほとんどの場合、最初のIgG抗体はエンベロープやカプシドタンパク(gp41やgp36など)に対する抗体です。
免疫システムの崩壊により日和見感染や腫瘍がみられます。またp24等のマーカーが感染後期に再び検出されるようになります。
ウィンドウピリオドは第1世代から世代が上がるたびに短縮され、第4世代では第3世代よりも1週間から2週間早く、平均15日~18日となっています(図6)。
第4世代の試薬は第3世代までの抗体のみの検査や、抗原のみの検査と違い、抗原と抗体を組合わせることにより、感染の初期から後期まで検出することができます。また偽陰性を避けるため、より広くサブタイプを認識をするようになっています。
HIV診断のアルゴリズムの流れは世界的に同じですが(図7)、各国でステップごとの詳細については異なることがあります。
ファーストラインテストではHIV抗体と抗原の両方を検出する第4世代の試薬を使うことが推奨されています。陽性の場合、セカンドラインテストとして、ウエスタンブロットやPCRなどの核酸増幅検査等を使用して確認テストを行います。セカンドラインの確認試験で陰性の場合、必要に応じ後日、改めて採血をし、PCR検査を行います。
HIV感染患者は治療モニタリングのためにHIV RNA検査によるウイルス動態とCD4+T細胞の検査を行うことが推奨されています。
2012年にCDC*で承認された新しいアルゴリズムでは、まず第4世代の試薬でスクリーニングを実施し、陽性の場合、HIV-1かHIV-2かを免疫学的に検査します(図8)。陰性の場合、必要に応じPCR検査を行います。
このように高価で手間もかかるウエスタンブロットを廃止し、より簡便な検査を推奨しています。
ロシュは第4世代のスクリーニングに使用する免疫学的検査から、感染の確認や治療効果などをモニタリングするHIV-1 RNAの定量検査のプラットフォームまで提供します。
HIV-1 p24抗原(初期の感染マーカー)とHIV-1とHIV-2に対する複数の抗体を同時に検出するECLIA法試薬です。
この抗原と抗体の両方を検出する方法が感度の向上と早期診断を可能にしています。
高い臨床感度(100%)であり、既知のすべてのHIVグループおよびサブタイプが認識されます5)。
臨床ルーチン、妊婦検査および透析患者群において高い特異性(99.81%)が示されています5)。
HIV-1 p24抗原とHIV-1およびHIV-2に対する抗体を別々に反応させ、抗原と抗体のカットオフインデックス(COI)がそれぞれ得られます。
この2つのCOIからHIV DuoのCOIを算出し結果の判定を行うECLIA法試薬です。
一方、抗原と抗体のそれぞれのCOIが得られることで、スクリーニング時に臨床へ病期(急性期/慢性期)の予測に有用な情報提供が可能になることが期待されています6)。
また抗原と抗体の反応を別々にすることで抗原検査はより高感度になり、感染の早期発見に役立ちます。
HIV-1の高度に保存され独立しているgagおよびLTR(Long Terminal Repeat)の2領域を同時に増幅検出します。このようにデュアルターゲットにすることで、一方のプローブ/プライマー領域において突然変異またはミスマッチが生じた場合でも性能が担保されています。HIV-1のグループMのすべてのサブタイプおよびグループOを検出します。また高い特異性(100%)と感度(最小検出感度 20コピー/mL)で再検査の必要性はほとんどありません。治療のモニタリングと、抗HIV抗体陽性の場合に行われるHIV-1感染の確認にも使用することができます。