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TDMの基礎知識

TDM(Therapeutic Drug Monitoring)は、治療薬物モニタリングや薬物治療モニタリングと呼ばれています。治療目的に投与された薬物の効果や副作用をみながら、個々の患者様に適した薬物投与を行う事です。一般的には投与された薬に対する血中濃度を測定する事で投与設計します。全ての薬剤がTDMの対象ではなく、血中濃度と治療効果・副作用が相関する薬物、治療域濃度と副作用発現領域濃度が狭く、副作用を起こしやすい薬物、薬物の吸収、分布、代謝、排泄に個人差が大きい薬物などが対象薬剤となります。代表的な薬剤として、抗てんかん薬、強信配糖体、抗不整脈薬、免疫抑制薬、抗菌薬などがあります。



血中濃度と薬効

薬の効きかたは、薬物動態学的な個人差と薬力学的な個人差があると考えられています。同じ薬剤を同じ用量投与しても、薬物血中濃度が異なる、薬物動態学的な個人差と同じ濃度でも薬物の効果・副作用が異なる薬力学的な個人差が考えられています。

薬物動態学=Pharmacokinetics:PKとは

生体内での薬物の吸収・分布・代謝・排泄など人が薬に与える影響

薬力学=Pharmacodynamics:PDとは

薬物濃度と薬物の効果・副作用など薬が人に与える影響

血中濃度と薬効



薬物の吸収-分布-代謝-排泄

薬を服用すると、吸収に伴い、薬の血中濃度は徐々に上昇し、吸収が終わればそれ以上は上がらなくなります。しかし、同時に薬は代謝・分解、排泄されますので、血中濃度は徐々に下がります。時間とともに体内の薬物濃度は変化します。採血のタイミングは、TDMにおいてとても重要なファクターとなります。

図1 経口投与後の血中薬物濃度プロファイル

杉岡伸幸、高田寛治:Medical Technology 2008:36(3)p252-256より引用

一般的に薬は連続投与されるため、徐々に血中薬物濃度が上昇していき、やがて吸収される量と排泄される量が等しくなり、血中濃度が一定した状態となります。これを定常状態といいます。TDMにおける治療域濃度は定常状態時の血中濃度に基づいて決定されています。多くの薬剤では定常状態時の血中濃度を測定します。薬物投与開始から消失半減期の4~5倍の時間が経過すると薬物血中濃度は定常状態に達します。腎機能障害のある患者によっては、半減期が長くなっているケースもあるので、留意する必要があります。



トラフ値とピーク値

TDMでは通常定常状態時の血中濃度を測定します。また吸収や分布の影響を受けにくくバラつきが小さい、タイミングがわかりやすいことから、多くの薬剤はトラフで採血します。例外的に、トラフとピークで採血する場合もあります。



有効血中濃度

有効血中濃度は多くの患者において治療効果があり、副作用が認められない統計的な参考値となります。個々の患者の背景、病態、治療効果、副作用をみながら、血中濃度を評価する必要があります。そのため、投与量、最終服薬時間、採血時間を明確にすることがTDMの基本になります。

血液採取についての注意

①点滴静注あるいはワンショット静注の場合、注射していない側から採血。

ジゴキシンやテオフィリン、アミノ配糖体系やグリコペプチド系抗生物質などはしばしば点滴静注や急速静注が行われます。その場合の採血は、注射部位からの高濃度の薬物による汚染を防ぐため注射した方と逆の腕または足から行います。

②適切な採血管を選択。

一部の採血管は、ガラス管の内壁にシリコンを吸着させ血清分離剤を入れてあるため、そのような採血管を使用すると薬物が血清分離剤に吸着され、実際の値よりも低値を示すことがあります。



薬物動態を変動させる要因

薬物動態に影響を及ぼす因子として、加齢、疾病、性差、肥満、妊娠などがあります。
薬物の消失半減期は、未熟児において特に長く、加齢とともに短くなりますが、小児においては成人よりも若干短くなる傾向にあります。
肝臓や腎臓の働きが加齢、疾病などによって変化すると薬物動態に影響を与えることになります。肝臓については、薬物代謝活性、肝血流量、蛋白結合率、胆汁流量などの変化に関与し、腎臓については、糸球体濾過速度、尿細管分泌などの変化に関与します。
また、妊娠時には著しい体重増加に伴って薬物の分布容積、血漿蛋白濃度、血流量などが変化し薬物動態に影響を及ぼします。

TDMが有効性を発揮するケース

  1. 作用を直接評価しにくい薬物
  2. 治療血中濃度範囲の狭い薬物
  3. 体内動態の個人差が大きい薬物
  4. 体内動態に非線形性がある薬物
  5. 肝機能や腎機能障害のある患者、または小児、高齢の患者で投与量の設定が困難な薬物
  6. 薬物併用により相互作用を生じるおそれがある薬物
  7. ノンコンプライアンスが疑われる場合や誤薬の疑いがある場合

伊賀達二、乾賢一 : 薬剤師・薬学生のための実践TDMマニュアル,じほう;2004;p4より引用



特定薬剤治療管理料

日本では抗てんかん薬についてのTDM研究実績によって医療でのTDMの必要性が認められ、診療報酬上でも特定薬剤治療管理料として保険請求できるようになりました。その結果、躁うつ病の治療薬剤である炭酸リチウムの発売(1980年)と同時に保険点数化(特定薬剤治療管理料)され1981年には抗てんかん薬やジギタリス製剤も対象となりました。

特定薬剤管理料は、個別の薬物毎に検査実施料が決まっているものではありません。検査そのものが評価されるのではなく、検査によってもたらされた計画的医療の「管理料」が評価されるのです。算定に際し、薬剤の血中濃度、治療管理の要点を診療録に記載する必要があります。



作用機序

抗てんかん薬

てんかんは、さまざまな原因により起こる慢性の脳疾患で、大脳のニューロンの過剰な活動に由来する反復性の発作です。
てんかんの病因はニューロンからの異常発射により興奮性グルタミン酸ニューロン終末からグルタミン酸(Glu)が放出され、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)型のGlu受容体が活性化されることにある。また、T型Ca2+チャンネルを通したCa2+の流入はNMDA受容体を活性化します。

ジギタリス製剤(強心配糖体)

心筋の細胞膜に存在するNa+ポンプを阻害すると細胞内Na+が細胞外へ出されないためにNa+濃度が上昇し、Na+/Ca2+交換反応によるCa2+の細胞内への流入が進むため、Ca2+濃度が上昇します。細胞内Ca2+濃度の上昇はミオシン-アクチン相互作用を強め、心筋の収縮力を高めて体循環を改善します。

テオフィリン製剤(喘息治療薬)

テオフィリンなどのようなホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬は気管支平滑筋を拡張させ、気管支狭窄による呼吸障害を軽減させます。
cAMP(サイクリックAMP)を加水分解するPDEを阻害して気管支平滑筋の細胞内cAMP濃度を高め、気管支平滑筋を弛緩します。

リチウム製剤

リチウムはノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質が受容体にくっついた後におこる変化を抑えると考えられています。つまり、躁状態ではいろいろな神経活動が上がっている可能性があり、それがリチウムによって抑えられるので躁状態が改善すると考えられています。

抗生物質

バンコマイシンはグリコペプチド系抗生物質であります。バンコマイシンは細胞壁合成前駆体であるD-アラニル-D-アラニン構造と結合し、細胞壁合成酵素を阻害し、細菌の増殖を阻害します。主にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染治療に使用されます。

免疫抑制剤

免疫抑制剤は、臓器移植などの際、拒絶反応をコントロールするために使用されます。免疫抑制剤による副作用を軽減させるため、数種類の免疫抑制剤を組み合わせて使用されています。ステロイド剤、代謝拮抗剤、カルシニューリン阻害剤、抗体製剤、mTOR抑制剤を組み合わせて使用されています。

カルシニューリン阻害剤(シクロスポリン・タクロリムス)

シクロスポリンは主としてT細胞(ヘルパーT細胞)によるインターロイキン-2(IL-2)等のサイトカイン産生を阻害することにより、強力な免疫抑制作用を示します。この産生阻害は、シクロスポリンがシクロフィリンと複合体を形成し、T細胞活性化のシグナル伝達において重要な役割を果たしているカルシニューリンに結合し、カルシニューリンの活性化を阻害することによります。カルシニューリンインヒビターによって脱リン酸化による転写因子NFATの細胞質成分の核内移行が阻止され、IL-2に代表されるサイトカインの産生が抑制されます。
タクロリムスの免疫抑制作用は、主としてT細胞による分化・増殖因子の産生を阻害することにより発揮されますが、この産生阻害はメッセンジャーRNAへの転写レベルで抑制されることに基づくと考えられています。タクロリムスは細胞内でタクロリムス結合蛋白(FKBP)と結合して作用を発揮すると考えられていますが、この蛋白はシクロスポリン結合蛋白であるシクロフィリンとは全く異なることが明らかとなっています。

mTOR抑制剤(エベロリムス)

エベロリムスは細胞内結合蛋白であるFKBP12(FK-506 binding protein-12)と結合して複合体(everolimus/FKBP12)を形成し、さらにこの複合体は細胞周期のG1期からS期への誘導に関与する主要な調節蛋白であるmTOR(mammalian target of rapamycin)に結合してその機能を阻害することにより、細胞増殖を抑制します。
mTORの下流にはp70S6キナーゼが存在しており、細胞増殖シグナルが伝達されると、mTORの調節下でp70S6キナーゼがリン酸化され、細胞増殖が促進されます。エベロリムスはp70S6キナーゼの活性化を阻害することで、IL-2及びIL-15 などによる主にT細胞の増殖を抑制し免疫抑制作用を示します。



免疫抑制剤ラインアップ

免疫抑制剤ラインアップ
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