B型肝炎ウイルス(HBV)は1970年代に同定されましたが*19、HBV表面抗原として現在知られているオーストラリア抗原は、それよりも以前に発見されていました*20。HBVは環状2本鎖DNAを持つエンベロープウイルスであり、ヘドナウイルス科に属しています*6*21(図7)。
A~H 型の8つのジェノタイプが知られていましたが、近年さらにジェノタイプI とJも加わりました*22。
参考資料・文献
HBVに過去または現在感染している人は世界人口の約3分の1で、おおよそ3.5-4億の人がキャリアとなっています*23。アフリカやアジアでは米国より感染率が高くなっていますが、米国では毎年約5千人がHBVに関連して死亡しています*6。世界人口の45%がHBV 陽性率の高い地域に住んでいますが、有病率は地域ごとに顕著な差があります*23(図8)。
また、各地域の主なジェノタイプは以下の通りになっています*22*25*26(表4)。
HBVは感染者の血液、臓器その他体液の曝露により感染し、皮膚の接触では感染しません。世界的に主な感染ルートは母子感染ですが、米国や西欧などの感染率の低い地域では、薬物常用者、針刺しなどの職業曝露、無防備な性交渉などが主な感染ルートとなっています*6*23*27。輸血や臓器移植による感染は先進国ではここ20年ほど前からもはや問題とはなっていません。HCVと異なりHBVは増殖スピードが速く、針刺しのような職業曝露による感染の可能性があります。これは医療従事者の感染リスクが高いことを意味しています*6。
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HBVは急性と慢性疾患の両方を引き起こす可能性があり、慢性肝炎の場合ウイルスDNAは宿主の細胞の中にエピゲノムとして持続するため排除することが困難です*27。急性感染の場合潜伏期間は感染後1-6カ月で、この間ウイルスは肝臓組織に広がります。宿主の免疫は感染防御のためウイルスを攻撃します。ウイルスは肝臓の中に複製されているため免疫の攻撃は肝臓組織のダメージを引き起こし、ALTの上昇につながります。HBVへの免疫応答の強さは個人差があるため急性感染の約65%の人は無症候ですが、残りは黄疸等一般的な肝炎症状を引き起こします。非常に稀ですが、移植を必要とするほど劇症化する場合があります(0.1-1%)*21。
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正確な診断による患者マネジメント
B型肝炎の血清学的検査にはいくつかのB型肝炎ウイルス(HBV)特異的抗原および抗体の測定があります。HBV感染の病期を特定するために様々な血清学的マーカーを組み合わせて使用します*28*29。
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信頼できる一貫した結果を治療方針決定のために
B型肝炎ウイルス(HBV)感染の自然経過は複雑かつ多様であり、感染の年齢、HBV複製レベルおよび患者の免疫状態に大きく影響されます*30。HBV感染と病期の診断は、前述の血清マーカーの測定によって行われます。
HBVの感染リスクが高いすべての患者、特に世界のHBV流行地域(HBV 有病率 ≥ 2%)においてスクリーニング検査が推奨されています。米国CDCのガイドラインはHBV感染に対して定期的にスクリーニングする必要のあるグループを特定しています*32*33。
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長期モニタリングの重要な評価ツール
慢性HBV感染の自然経過は、ALT、HBV DNAおよびHBe抗原の有無によって4つの病期に分けられます*30*31(図13)。
ウイルス量の測定は、治療前ベースラインを確認、治療中の抗ウイルス薬の効果モニタリング、そしてブレイクスルーの監視をする慢性HBV患者のマネジメントの標準的なツールです。血中のHBV DNA量は、慢性B型肝炎において疾患進行の重要且つ独立したリスク因子です。
HBV DNA量は、慢性B型肝炎の経過中に著しく変動することがあります。自然経過は非常にダイナミックであり、すべての患者が治療を必要とするわけではありません*34。
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患者マネジメントのさらなるマーカー
非活動性キャリアを特定し、肝癌(HCC)への進行リスクを評価します:
様々な研究や欧米における最近の推奨ガイドラインでは、HBV DNA量が2,000IU/mL以下かつHBsAg量1,000IU/mL以下であれば確実に非活動性キャリアを特定できることが示されています*39*40*41(図15)。
非活動性キャリアの病期進行は低リスクであり、適切なマネジメントによってHBsAgクリアランスやほとんど治療の必要がない状態となる可能性が高くなります。
HBV DNA量が2000IU/mL以下の患者において、HBsAg量が1000IU/mL以上であることは新規の独立したリスク因子であるとされています*42。
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