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副甲状腺について



副甲状腺(parathyroid glands)

副甲状腺は、甲状腺の裏側に存在している大きさは米粒程の内分泌腺です。甲状腺両葉の上端と下端に1腺ずつ存在し、通常は合計4腺あります。まれに胸腺などに異所性の副甲状腺が存在し、5腺以上保有している場合もあります。

副甲状腺では、体内におけるカルシウム(Ca)およびリン(P)の濃度調整において重要な役割を担う副甲状腺ホルモン(paratyroid hormone:PTH)が産生されます。PTHは84個のアミノ酸から成るタンパク質です。

副甲状腺



PTHの役割

PTHは、副甲状腺より分泌されると、骨と腎臓に作用して、体内のCa、Pをはじめとした電解質濃度を調節しています。そのため、PTHは以下の4つの作用をしています。

  1. 骨からの骨吸収(Ca・Pの吸収)を促進
  2. 腎臓の遠位尿細管でのCaの再吸収を促進
  3. 腎臓の近位尿細管でのビタミンDの活性化を促進
    ⇒活性化されたビタミンD(1,25(OH)2D)は小腸でのCa・P吸収を促進
  4. 腎臓の近位尿細管でのリン(P)や水酸化物イオンの排泄を促進

 

これらの作用を通じて、PTHは血中Ca濃度を上昇させる一方、血中P濃度を低下させます。このようにPTHは、腎臓・骨と密接に関わっているホルモンです。

PTHの役割

参考資料・文献

  • 病気がみえる vol.3 代謝・内分泌疾患 第1版:株式会社 メディックメディア:203, 2002



慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)

腎臓(kidney)は、こぶし大の臓器で体内の水分量や電解質の調節および代謝産物を排泄する役割を持ちます。そのため、毎分1リットルもの血液が腎臓に流れ込み、不要なものを尿として体外へ排出します。さらに、副甲状腺・骨・腸管と共に、生体のミネラルバランスを維持しています。つまり、腎機能が低下してしまうと尿の異常やミネラル代謝異常が必ず生じます。

腎機能が低下し、以下の定義を満たすと慢性腎臓病:CKDと診断されます

慢性腎臓病

(「日本腎臓学会編, CKD診療ガイド2012(東京医学社)」より引用)

ただし、日常診療においてGFRは、GFR推算式を用いて推算GFR(eGFR)として評価されます。これまでeGFRの推算式には血清クレアチニン(Cr)値を用いるのが一般的でした。しかし、昨今では体組成や年齢の影響を受けないシスタチンC(Cys-C)値を用いることが推奨され始めています。

慢性腎臓病

(「日本腎臓学会編, CKD診療ガイド2012(東京医学社)」より引用)

CKDの重症度は右表の通りGFRによってステージ1〜5に分類されます。さらに、KDIGOガイドラインの改訂に伴い、日本においても原疾患ならびに尿蛋白が重症度評価に加味されるようになりました。その表中にはeGFRステージと蛋白尿区分の組み合わせ下における死亡・末期腎不全(end-stage kidney disease:ESKD)・心血管死亡発症リスクが記載されています。現在、日本国内のCKD患者は約1300万人おり、国民病と言えるほど頻度の高い疾患です。なかでも、腎機能が通常の10%以下となり、透析療法や腎移植を必要とする末期腎不全患者は約30万人います。さらに右表にもあるように、CKDはESKDや心血管疾患(cardio vascular disease:CVD)の危険因子であり、生命予後に影響を及ぼすという認識が高まってきています。特にCVDによる死亡率が高いことから、CKDの進行を遅らせるような治療が求められています。

CKDの重症度分類

(KDIGO CKD guidline 2012を日本人用に改変)
(「日本腎臓学会編, CKD診療ガイド2012(東京医学社)」より引用)

参考資料・文献

  • CKD診療ガイド2012:日本腎臓学会編, 東京医学社:2012



CKDに伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD- Mineral and Bone Disorder: CKD-MBD)

腎臓は、副甲状腺、骨、小腸と共に、体内のCaやPをはじめとしたミネラルバランスを維持しています。腎機能が低下しているCKD患者では、CaやPの調節が不十分となり、ミネラル代謝異常が起こります。すなわち、これはビタミンD活性化の低下による低Ca血症、さらにP排泄能低下にともなう高P血症の状態を指します。このようなCa・P状態を改善するために、体内ではPTHおよびFGF-23(fibroblast growth factor-23)が産生され、血中に分泌されます。そのため、末期腎不全に至る前の保存期CKD患者では血中Ca・P濃度がほぼ一定に保たれる一方で、血中PTHならびにFGF-23濃度はCKDステージ2から上昇し始めることがわかっています。さらに、副甲状腺が二次性副甲状腺機能亢進症を発症すると、血中PTH濃度は持続的に高値の状態となります。これを受けて骨吸収が促進されると、通常以上に骨代謝回転が上昇して、骨代謝異常が起きます。さらには、血管を中心とする石灰化が生じ、心血管イベントを誘引するひとつの因子となります。この一連の病態をCKD-MBDと呼びます。

CKD-MBDという概念は、検査値・骨の異常ならびに血管石灰化が、心血管イベント発症・骨折・死亡のリスク上昇と関連深いことを意味し、CKDが全身性疾患であることを示しています。従って、CKD患者の治療は生命予後の改善を目指すものに変化しています。

参考資料・文献

  • Nakano C, Hamano T, Fujii N, et al.:Clin J Am Nephrol, 7(5):810-9, 2012
  • Herberth J, Fahrleiter-Pammer A, Obermaayer-Pietsch, et al.:Clin Nephrol, 65(5):328-34, 2006
  • 谷口正智:THE BONE, 24(4):27-35, 2010
  • KDIGO CKD-MBD Work Group:Kidney Int, 76(Suppl 113):S3-8, 2009



二次性副甲状腺機能亢進症(Secondary hyperparathyroidism)

二次性副甲状腺機能亢進症はCKD患者特有の合併症です。腎機能低下によるミネラル代謝異常を是正するために通常以上のPTH産生が必要になると、副甲状腺細胞が過形成を起こし、PTH分泌が過剰な状態になります。特に重症度の高い結節性過形成に至ると、血中PTH濃度が500pg/mLを超える症例も見受けられます。透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症治療の第一選択は、活性型ビタミンD製剤やシナカルセト塩酸塩などを用いた内科的治療です。さらに重症度の高い患者に対しては、外科的治療が施行されます。近年、病態の進行によって血中PTH濃度が高値の状態が続くと、下記のような骨や血管の合併症を生じ、死亡リスクが上昇することが認識されています。そのため、CKD患者において、副甲状腺機能および骨代謝状態を把握するためにPTHは測定されています。

二次性副甲状腺機能亢進症
線維性骨炎

PTHの作用によって骨吸収が促進すると、骨を構成するCa及びPが血中に放出されます。これに伴って骨形成も促進されて骨代謝回転が上昇し、線維性骨炎が引き起こされます。すると、骨量が減少するために容易に骨折しやすくなります。すでに透析患者では、骨代謝異常に伴う大腿骨骨折によって生命予後が悪化することが報告されています。

異所性石灰化

PTHの刺激を受けて骨から溶出したCaやPが、骨以外の軟部組織に沈着することを異所性石灰化といいます。特に血管や心臓弁への石灰化は生命予後に影響を及ぼすことから、透析患者の死亡原因として心血管障害が増加しています。血管石灰化には、血管内にプラークを形成する内膜石灰化と血管中膜平滑筋層を骨化する中膜石灰化(メンケベルク動脈硬化)があります。CKD患者では、ミネラル代謝異常の影響から、後者を引き起こす割合が大きいことが特徴です。

参考資料・文献

  • 谷口正智:THE BONE, 24(4):27-35, 2010
  • Komaba H, Takeda Y, Shin J, et al.:NDT Plus 1(Suppl 3):iii54-58, 2008
  • Tentori F, Blayney MJ, Albert JM, et al.:Am J Kidney Dis 52(3):519-530, 2008
  • わが国の慢性透析療法の現況2011年12月31日現在:一般社団法人 日本透析医学会 統計調査委員会:17-20, 2012
  • 森良孝, 深川雅史:腎と透析 72(4):521-526, 2012



慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン

CKDは骨や副甲状腺の異常のみならず血管石灰化を介して生命予後に影響を与えることが認識されたことから、KDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)より出されたCKD-MBDという新しい概念が世界的に広まっています。日本では、2012年3月に日本透析医学会より、新たなガイドラインとして『慢性腎不全に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン』が発刊されました。このガイドラインは、CKD-MBDは全身性疾患であるという考え方の下、前身の『透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症ガイドライン』(2006年)と比較して、より生命予後の維持に着目して作成されています。また、腹膜透析、保存期、移植、小児患者も新たに対象患者となり、多岐に渡るCKD-MBDの病態管理が内容に盛り込まれています。

第1章:透析患者のCKD-MBD管理における基本事項

PTHは、透析患者のCKD-MBDに関連したルーチン検査として位置づけられています。測定頻度としては、通常は3カ月に1回の測定が推奨されています。ただし、管理目標から逸脱し、治療の変更や高PTH血症に対する積極的な治療の施行中は安定するまで月に1回の測定が望ましいとされます。

透析患者に対する他のルーチン検査項目として、血清P、血清Ca、アルブミン、ALPが挙げられています。特に血清P、Caは月に1-2回は最低でも測定することとされ、その管理目標値は第2章で右表のように推奨されています。

透析患者の管理目標値
第3章:透析患者のCKD-MBD管理における基本事項

この章では、副甲状腺機能管理に対するPTH管理指針が取り上げられています。前ガイドラインでは、intact-PTHの管理値とwhole-PTHの換算式が記載されていましたが、新ガイドラインではintact-PTHに加えてwhole-PTHも管理幅が記載されています。各PTHの管理推奨値は以下の通りです。

各PTHの管理推奨値
第4章:副甲状腺インターベンションの適応と方法

二次性副甲状腺機能亢進症の治療には、第一選択として内科的治療が施行されます。しかし、それに抵抗するような高度の患者では、骨関節痛の自覚症状だけでなく血管石灰化を介して生命予後に悪影響を及ぼす可能性があります。そこで、劇的に血中PTH濃度を低下させ、血清P、Caを管理しやすくするために、副甲状腺摘出術(PTx)が有用な治療となります。

intact-PTH500pg/mL以上、whole-PTH300pg/mL以上が高度な二次性副甲状腺機能亢進症の指標と記載されています。ただし、PTHが指標以下の値であっても、血清P、Caが高値を示して是正困難な場合は、PTxを実施することが妥当です。

第9章:保存期 CKD-MBD

透析導入前のCKD患者(保存期CKD患者)に対しては、PTH、血清P、Ca、ALPをCKDステージ3から測定することが推奨されています。PTHの推奨されている測定頻度は、CKDステージによって異なります(下表)。測定値は、世界のガイドラインと同様に、保存期CKDに対する明確な管理目標値は設定されていませんので、各測定キットの基準値を使用することが推奨されています。つまり、基準値を超える場合に、PTHの是正が考慮されます。

測定頻度

(社団法人 日本透析医学会「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン」より引用)

参考資料・文献

  • 一般社団法人 日本透析医学会:透析会誌 45(4):301-56, 2012



血中のPTH

PTHの産生と分泌は、血中Ca濃度によってコントロールされています。血中Ca濃度が低下すると、副甲状腺細胞がそれを察知してPTHを血中に分泌します。そして、分泌されたPTHが骨や腎臓に作用することによって、血中Ca濃度が上昇します。一方、血中Ca濃度が十分に上昇すると、PTH産生は抑制されます。このとき、細胞内に残っているPTHは生理活性の無いフラグメントに分解後、血中に放出されます。このような方法で、副甲状腺は体内のCa濃度を速やかに調節しているので、血中には必然的に84個のアミノ酸から成るPTH(1-84)だけでなく、PTHのフラグメントも存在しています。

PTHフラグメントには、様々な大きさのものが存在していることが明らかとなっています。代表的なフラグメントとしては、PTH(7-84)やPTH(1-34)などが挙げられますが、実際にPTHの生理活性を持つのはPTH(1-84)だけであり、PTHフラグメントは生理活性を持ちません。さらにPTH(7-84)にはPTHの生理作用に対して、拮抗する作用があることもわかっています。血中に分泌されたPTHの半減期は3〜5分で、腎臓と肝臓で代謝されます。これら2つの臓器では代謝できるPTH分子が異なり、肝臓で代謝されるのはPTH(1-84)のみです。つまり、血中に存在しているPTHフラグメントの代謝は全て腎臓が行っています。CKD患者のように腎機能に異常があると、PTHの代謝にも影響が出てきます。すなわち、腎機能の低下に伴って代謝遅延が起こり、PTHは血中に蓄積された状態となります。

血中のPTH

参考資料・文献

  • 堀内敏行、木野内喬:日本臨牀 53(4):30-6, 1995
  • Lopez MF, Rezai T, Sarracino DA, et al.:Clin Chem, 56(2):281-90, 2010
  • Slatopolsky E, Finch J, Clay P, et al.:Kidney Int 58(2):753-61, 2000



PTH測定系の違い

国内のPTHアッセイは、現在に至るまでに第3世代まで開発されています。

第1世代は、『C-PTH』や『高感度PTH』と呼ばれた測定系で、PTHのC末端側や中間部のフラグメントを検出します。しかし、CKD患者では血中にPTHフラグメントが蓄積するため、副甲状腺機能を過大評価してしまうことが問題となりました。それを解決する為に開発された第2世代の『intact-PTH』は、現在日本で主流となっているPTH測定法です。当初は、生理活性のあるPTH(1-84)のみを検出する測定系と考えられていましたが、数々の研究が進むと、生理活性のないPTH(7-84)も検出していることが明らかとなりました。そこで更に開発されたのが、よりN末端側のアミノ酸を捉えてPTH(1-84)のみを検出する第3世代の『whole-PTH』です。

現在PTH検査としては、主にintact-PTHとwhole-PTHの2つが測定されています。先に述べたように、これらの測定系は検出できるPTHフラグメントが異なります。したがって、PTHフラグメントが血中に通常より多く存在するCKD患者検体では、2つの測定値に差が生じます。透析患者での研究ではwhole-PTH値は、intact-PTH値の約6割になることが報告されています。

PTH測定系の違い

参考資料・文献

  • 堀内敏行、木野内喬:日本臨牀 53(4):30-6, 1995



PTH測定の位置づけ

これまで透析患者におけるPTH検査は、患者の骨代謝状態を評価するために実施されてきました。しかし近年、CKD-MBDの概念が提唱され、PTHは骨代謝の指標という位置付けから、副甲状腺機能を評価する指標へと認識が変化してきています。さらに、日本の新たなガイドラインにwhole-PTHの管理目標値が記載されたことにより、intact-PTHに加えてPTHを管理し得る検査項目が増えました。PTHが単独で生命予後に影響を及ぼすかどうかは、現段階で明らかなエビデンスは得られていません。しかしながら、PTHが生命予後を確実に悪化させるPおよびCaの調節に深く関連していますし、管理幅を逸脱していれば死亡リスクが上昇することが報告されています。ですから、P、CaとともにPTH測定を実施し、副甲状腺機能を把握したうえで治療していくことが、患者予後を保つためには重要です。

参考資料・文献

  • Tentori F, Blayney MJ, Albert JM, et al.:Am J Kidney Dis 52(3):519-530, 2008
  • Melamed ML, Eustace JA, Plantinga LC, et al.:Nephrol Dial Transplant, 23(5):1650-8, 2007