Article

サイトメガロウイルス感染症

sFlt-1/PlGF比

おさえておきたいPOINTS

  • CMVの核酸定量検査が2020年8月より保険収載されました。
  • PCR法は血漿中のDNA量を定量することで、アンチゲネミア法とは異なり測定結果が白血球数に影響を受けません。

サイトメガロウイルス(CMV)感染症

CMV感染症は造血細胞移植後・臓器移植後の免疫抑制下において最も多い感染症の一つであり、患者の生命予後に影響するため、移植後に定期的なCMV感染症の検査を実施することが重要です。

 

サイトメガロウイルス(CMV)

サイトメガロウイルス(CMV)は、ヘルペスウイルス科に属する、直径約200~230nm、ゲノムサイズ236kbpからなる2本鎖DNAウイルス※1。ヒトヘルペスウイルス5型(human herpesvirus-5;HHV-5)とも呼ばれる。
ウイルスの中心部にあるDNAはカプシドに囲まれ,さらにその外側にはテグメントがあり、それを囲む最も外側にあるエンベロープには糖蛋白の突起が存在している。

※1 Fields Virology sixth edition 2013

サイトメガロウイルス(CMV)

 

CMV感染と感染症

  • CMV感染(CMV infection):血液やその他の検体から体内にCMVが同定される状態。
  • CMV再活性化(CMV reactivation):潜伏感染から、ウイルスが増加してCMV感染が同定される状態
  • CMV感染症(CMV disease):CMV感染により臓器障害など臨床症状を伴う状態。

CMV感染は、CMV感染症の前段階にありますが、CMV感染がすべてCMV感染症に移行するわけではありません。
CMVは、多くの場合、幼少期に感染し、初感染後、潜伏感染のかたちで終生、体内に存在します。(体内のどこに潜伏感染するかははっきりとは同定されていません。
また、慢性感染でずっと残存することはありません)臓器移植の場合は移植片とともにレシピエントに伝播する場合、また、もともとレシピエントの体内に潜伏しているCMVが何らか誘引によって再活性化する場合があります。
臓器移植においては同種免疫反応と免疫抑制の両方が関与しているためCMVの再活性化が起こりやすい状態にあります。

血清学的検査によるCMV感染確認

ドナー・レシピエントのCMV抗体陽性はCMV再活性化のリスク因子の1つです。

 

CMV抗体と感染リスク

CMVは一度感染すると終生体内に存在するため、感染者はIgG抗体陽性となります。ドナー・レシピエントのCMV抗体陽性は、CMV再活性化のリスクとなるため、CMV再活性化のリスク評価のために、ドナーとレシピエントの抗IgG抗体の測定が推奨されています。

【臓器移植の例】 D+/R- > D+/R+ > D-/R+ > D-/R-

CMV感染の診断法

診断の際にはCMVの活動性感染をウイルス学的に証明することが必要です。
実臨床の場では現在 CMV抗原血症検査(アンチゲネミア法:AG法)が主流ですが、2020年8月に標準化定量PCR法が保険適用になって以降徐々にPCR法へ移行が進んでいます。

 

アンチゲネミア法(HRP-C7法・C10/C11法)

CMVpp65抗原に対するモノクローナル抗体を用いて、末梢血中のCMV抗原陽性細胞(多形核白血球)を検出する方法。結果を抗原陽性細胞数で定量的に表現する。

 

定量PCR法

検体中のCMV DNAをリアルタイムPCR法により増幅し定量する方法。感度が高く、特異性に加えて迅速性もある。一般的には血漿が検体として用いられる。

 

アンチゲネミア法と定量PCR法の比較

表の全てを見る

アンチゲネミア法と定量PCR法の比較

  アンチゲネミア法 定量PCR法
検出対象

白血球中のpp65抗原

  • 末梢血中の白血球数が少ない場合には偽陽性や判定不能となることがある

血漿中のウイルスDNA

  • ウイルス量が白血球数に影響されない
測定方法

pp65抗原陽性白血球を顕微鏡下で目視確認/カウント

  • 目視による判定・定量

全自動リアルタイムPCR法により定量

  • 全自動測定による高い精度と信頼性
  • 内部コントロールにより偽陽性を防止
測定結果

一定量の白血球数あたりの陽性細胞数を報告

  • 標準物質がない半定量検査

国内外のガイドラインに準拠した単位 IU/mLで報告

  • WHO international standardにより値付された定量試薬

CMVの核酸定量検査が2020年8月より保険収載されました。

概要  
測定項目 サイトメガロウイルス核酸定量
測定方法 リアルタイムPCR法
保険点数 450点
区分 D023 16
 

留意事項:
「16」のサイトメガロウイルス核酸定量は、サイトメガロウイルス感染症の診断又は治療効果判定を目的として、臓器移植後若しくは造血幹細胞移植後の患者、HIV感染者又は高度細胞性免疫不全の患者に対し、血液を検体としてリアルタイムPCR法によりサイトメガロウイルスDNAを測定した場合に算定する。ただし、高度細胞性免疫不全の患者については、本検査が必要であった理由について、診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。

コバス6800/8800 システムCMV 国内臨床試験結果

アンチゲネミア法と定量PCR法の判定結果

2法を比較したところ概ね良好な一致率を示しました。

PCR法(cobas 6800/8800 システム CMV)が「Target Not Detected」あるいは「< Titer Min」となった検体を陰性相当とした場合

  アンチゲネミア法
  陽性 陰性
PCR法 陽性相当 (定量値あり) 342 196 538
陰性相当 (<34.5, TND) 49 1,349 1,398
391 1,545 1,936

社内データ

  • 陽性一致率 87.5%(342/391)
  • 陰性一致率 87.3%(1,349/1,545)
  • 全体一致率 87.3%(1,691/1,936)

PCR法(cobas 6800/8800 システム CMV)が「Target Not Detected」となった検体を陰性相当とした場合

  アンチゲネミア法
  陽性 陰性
PCR法 陽性相当 (定量値あり, >34.5) 378 477 855
陰性相当 (TND) 13 1,068 1,081
391 1,545 1,936

社内データ

  • 陽性一致率 96.7%(378/391)
  • 陰性一致率 69.1%(1,068/1,545)
  • 全体一致率 74.7%(1,446/1,936)

アンチゲネミア法に対する定量PCR法 参考値

アンチゲネミア法の主なカットオフ値とそれぞれの値に相当する定量PCR法の測定値を国内臨床試験結果から算出しました。

アンチゲネミア法に対する定量PCR法 参考値のグラフ

アンチゲネミア法測定結果とPCR法測定値の分布

アンチゲネミア法の測定値に対するPCR法の測定値の分布範囲は下図のようになりました。
従来のアンチゲネミア法の陽性細胞数の増加に伴い定量PCR法の測定結果の中央値が上昇する傾向が見られます。

アンチゲネミア法測定結果とPCR法測定値の分布図

監修:愛媛大学大学院医学系研究科 血液・免疫・感染症内科学教授 竹中克斗 先生