※こちらの内容は2023年11月15日に開催されたコバスTV/MGウェブセミナーにて濵砂先生に解説頂きました内容を編集したものになります。
※ TV:トリコモナス、MG:マイコプラズマ・ジェニタリウム、CT:クラミジア・トラコマチス、NG:淋菌
保険の算定に関するご質問について解説するのは非常に難しいです。なぜなら、保険が必ず通る決まった規則があるわけではなく、都道府県によってもそれぞれ考え方が違います。また新しい病名ですので、疾患の詳細をご存知ではない保険担当の方もおられるかもしれません。尿道炎患者さんは開業医に来院されることが多いため、保険担当をされている先生が総合病院に勤務されていると、最近の尿道炎の治療の難しさをわかってもらえない場合もあります。マイコプラズマ・ジェニタリウム(MG)感染症が少しでも理解されるよう、今後も活動していきます。
MGに関する保険病名をこちらに示しております。
黄色で示している病名が2022年12月に使えるようになった病名です。マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症、泌尿器科であればマイコプラズマ尿道炎、婦人科であればマイコプラズマ子宮頸管炎を用いることができます。これに対してマイコプラズマ感染症と気管支炎などは、マイコプラズマニューモニエに関する病名になりますので、お間違えないようにご注意ください。マイコプラズマ感染症と書いてしまいますとニューモニエの話と捉えられることがあります。
マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症という名前が一番簡単です。泌尿器科ではマイコプラズマ尿道炎が使いやすいです。もう一つ大切なことは、「尿道炎」という確定病名をつけたうえで、マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症疑いなどの病名をつけていただければと思います。初診の段階ではMGに感染しているかどうかはわかりませんので、「尿道炎」という確定病名は重要だと思います。
私のところにいらっしゃる患者さんはMGが治らない症例の方が多いので、私はさらに難治性の尿道炎であったり、再発性の尿道炎という病名を追加することもあります。
次にトリコモナス・ヴァギナリス(TV)に関する病名です。昔からトリコモナス尿道炎の病名はありましたが、新たにトリコモナス性精嚢、前立腺炎などがまた新しく加わっています。こちらを記載いただくということになります。
TV/MGの両方を測定しているので、マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症とトリコモナス尿道炎などのトリコモナスの病名を、両方をつけないと保険請求が通らないという都道府県があるとお聞きしております。都道府県によって状況は異なりますので、もし保険担当の先生をご存知でしたら、そちらにお聞きになられる方が良いかと思います。
都道府県によって尿道炎という病名があり、クラミジア尿道炎疑い、淋菌尿道炎疑い、そしてマイコプラズマ・ジェニタリウム感染症疑いで保険請求が通る都道府県もあるとお聞きしております。初回から査定されない県がある一方、MGの検査は、クラミジア(CT)、淋菌(NG)が治癒しない症例にしか承認しないという都道府県もあるとお聞きしております。
個人的には、マクロライドなどCTに対する治療ではMGの治癒率が低いので、CT、NG、MGの検査は初回より承認してほしいと思っております。しかし学問と日本の保険医療というのは別物だとお考えいただき、その都道府県の状況に合わせて検査をしていただくということが、現在私が言える答えです。
少なくともCT、NGの治療法で尿道炎治療がうまくいかない症例に対しては、MG検査が承認されないというのはおかしなことだと思っています。その場合には「難治性の尿道炎」という記載が、保険請求の助けになるのかもしれません。ただし、上記保険請求に関しましては、あくまで私個人の意見であると、考えていただきたいと思います。
MGによる尿道炎に対する治療に限って解説させていただきます。
まずマクロライドですが、アジスロマイシンもしくはクラリスロマイシンはいずれもある程度効果がありますが、どちらかというと、アジスロマイシンの抗菌活性が高いと思います。クラリスロマイシンによる臨床研究は殆どありませんので、現時点ではアジスロマイシンを用いることになります。しかし我が国で分離されるMGのマクロライドに対する耐性率を考えると、現在アジスロマイシンの有効率は10%から30%ぐらいであろうと考えられます。マクロライド感受性のMGは、CTをターゲットにする治療法で除菌されますので、これまではMGは検査されないまま、治癒していた可能性があります。現在はマクロライド耐性MGが多いため、難治例が増えているということです。
その次がテトラサイクリンです。ドキシサイクリンとミノサイクリンですが臨床研究が数多くあります。まずドキシサイクリンは以前から変わらず35%から45%ぐらいの有効率だろうと思います。投与期間について7日間か14日間か、どちらが良いかということですが、7日間投与と14日間投与の比較試験は、殆どありません。おそらく14日間の方が有効率は高いと思います。ミノサイクリンに関しましては論文が3報ほどあります。2021年ごろに出た論文によるとミノサイクリンの14日投与は、50%から70%程治療効果があったということです。テトラサイクリンの良さというのは、反復使用しても耐性になりにくいことです。テトラサイクリン耐性に関与しているtetMという有名な遺伝子がありますが、このtetMが分離されたMGの論文は殆どありません。
次にMGに有効なキノロン系抗菌薬はシタフロキサシンとモキシフロキサシンです。モキシフロキサシンは、我が国では尿道炎に保険適用がありません。シタフロキサシンは1錠50mgであり、初回治療に1回2錠(100mg)1日2回投与が認められない都道府県があるようですが、MG感染症には1回2錠(100mg)、1日2回、つまり1日200mgを使用すべきです。低用量ではMGは容易にキノロン耐性となることが示されております。このキノロン耐性がセレクションによって起っているのか、新たな遺伝子変異により起っているのかは現在、研究中です。キノロンがMGに80~90%効果があるというデータがありますが、これは昔のデータです。現在耐性が増えており有効率はもっと下がっていると思います。是非高用量で使用してください。
アメリカのCDCガイドラインで示されているドキシサイクリンとモキシフロキサシンによるsequential therapyの有効性は92%程度です。我が国でも、CDCガイドラインに従ってsequential therapyを行うべきと考えています。ドキシサイクリン1回100mg1日2回7日間に続いて、シタフロキサシン1回100mg、1日2回7日間投与が良いと考えています。ドキシサイクリンのかわりにミノサイクリンにしても良いと思います。残りの8%ぐらいを何で治療するのか、セカンドラインは何かということに関しましては、現在検討中です。
我々専門医としては性感染症に対する治療はできる限り単回で、または短期間で95%以上に有効な抗菌薬治療法をガイドラインにしたいと考えております。なぜかと言いますと、やはり性感染症の患者さんは再診率が低いので、1回の治療で終わらせるのがベストです。ただし、MG感染症に対しては現時点では単回治療は難しいと思います。治療は難しく、再診時に再検査は必ず必要ですし、失敗例におきましては複数の抗菌薬の組み合わせを考慮すべきです。
MGについては性感染症の治療の大原則にちょっと外れた細菌であるということを御認識いただきたいと考えております。
CDCのガイドラインでは無症状では治療する必要はないと記載があります。しかしながら、やはりパートナーがいらっしゃる場合は、しっかり検査をして治療をすべきであると思います。
必ず検査が必要なタイミングというのはCT、NGの治療を行っても治療が困難な場合です。タイミングを逃さずに行って頂きたいと思っていますが、初回受診時にすべての症例で検査をすべきかということに関しては、やはり都道府県ごとの保険の状況がありますので、現状では慎重に検査を実施いただくとしか言えません。
治療後の検査に関しましては、核酸増幅法の検査ですので、治療後すぐに検査しますと、残った菌や、死菌を拾う可能性が十分あるかと思います。私は最低2週間空けて検査をしてみます。2週間しますと症状が再燃したかどうかというのもわかりますし、その時に患者さんにその話もできますので、やはり2~3週間空けた上で、このTV/MGを行って頂くのがベターと思われます。
海外のガイドラインにおきましても同じような文言がございますので、やはり少し時間をあけていただいて検査をする方が良いと思います。
実際にコバスTV/MG検査が使われている頻度はまだまだ低いと思います。検査が先生方に周知されていないということです。学会などでメーカーから病原体、検査を知っていただく機会を増やし、そして先生方には検査の意義を十分に知っていただき、是非必要な患者さまには検査をしていただきたいと思います。
検査としては尿、腟擦過物、子宮頸管擦過物が適用検体種となっています。
男性の腟トリコモナス検査ですが、こちらも尿道スワブでなく、尿検体です。実際に男性の尿検体でもコバスTV/MGの感度は高く設定されております。私はこれまで留学先のデンマークで習ったリアルタイムPCRでトリコモナスを検出してきましたが、その方法と比較してもコバスTV/MGの感度は高いと思います。コバスTV/MGの感度、その検査結果の信頼性はかなり高いと考えて良いと思います。
ただ問題点が若干あります。治療後どれくらいで治癒確認をするのが適切かという部分は検証がなされていません。臨床研究自体は現在海外で行なわれておりますので、その結果を待つ必要があるかと思います。おそらく2週間~3週間おけば死菌自体は出てこないと思います。
マイコプラズマ・ホミニス、ウレアプラズマ・パルバムやウレアプラズマ・ウレアリチカムは、現在でも郵送検査でよく行われている検査の一つで、保険承認外で行われています。マイコプラズマ・ホミニス、ウレアプラズマ・パルバム、ウレアプラズマ・ウレアリチカムが頻度高く検出されることがあります。これらの細菌が婦人科疾患や尿道炎の原因になるかということに関しては、多くの検証が行われております。婦人科疾患は別ですが、海外で行われた男性の尿道炎の研究では、マイコプラズマ・ホミニスとマイコプラズマ・パルバムは尿道炎の原因菌にはならない、強い症状を起こさないことが分かってます。実際にこれらの菌のDNAのコピー数を測定しますと、陽性症例でも、マイコプラズマ・ホミニス、ウレアプラズマ・パルバムのDNAコピー数は極めて低いことがわかります。婦人科疾患ではマイコプラズマ・ホミニスは感染症の原因になることがあるのですが、男性では原因にはならないと考えております。ではパートナーとして治療すべきかどうかというところに関しましては、これはまだ答えがありません。
ウレアプラズマ・ウレアリチカムは一部分の症例では尿道炎の原因になるだろうと思います。しかし、非常にたくさんの症例を検討していきますと、無症状で白血球も出てない方からもウレアプラズマ・ウレアリチカムは多くの症例から検出されてきます。学会ではウレアプラズマ・ウレアリチカムには病原性があるというグループと、ないというグループと分かれております。私はどちらかと言いますと関与している症例は少ないだろうと思っております。現在保険承認がなされていない以上、鑑別診断する意義はあまりないと思っております。
郵送検査などで、陽性だったと来院される患者さんに対しても、私は尿道炎として、マイコプラズマ・ホミニスとウレアプラズマ・パルバムに対する治療は行いません。症状もなく、しばらくすると消えることもあります。ウレアプラズマ・ウレアリチカムで濃度が非常に強い方に関しましてはテトラサイクリン、キノロンで治療することがあります。ウレアプラズマはアジスロマイシン耐性であったりテトラサイクリン耐性であったり症例によってはキノロン耐性もございますので、こちらも治療は少し難しいです。
これらの細菌に対して薬剤感受性試験が現時点でも保険承認になっておりませんので、色々な薬を使っていくしかありませんし、臨床上、鑑別診断もできません。実際、TV/MG検査にてMGが陽性なら、マイコプラズマが関わっているだろうと思いますし、MGが陰性なら、ウレアプラズマ・ウレアリチカムが関与しているのではないかと考えて、治療を行うというのが、現時点での回答になるのではないかと思っています。
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