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骨代謝マーカーについて



骨代謝とは

骨は新陳代謝を繰り返しながら絶えず入れ替わっている組織です。骨代謝は、破骨細胞がもろくなってきた古い骨を壊す骨吸収と、骨芽細胞が新しい骨を造ることによって破骨細胞が壊した跡を修復する骨形成の組み合わせで成り立っています。このサイクルを繰り返す骨のリモデリング(再構成)において形成と吸収のバランスが取れているとき、骨量はほとんど変わらないまま維持されます。女性では閉経直後から骨量減少が進行しがちですが、これはホルモンバランスの変化(エストロゲンの減少)により骨吸収が亢進し、骨形成よりも骨吸収が優位な状態が続くことによるものとされています。

骨代謝回転
  1. 吸収期:破骨細胞が古い骨組織を溶かす(骨吸収)
  2. 逆転期:単核細胞が吸収窩の表面を整える
  3. 形成期:骨芽細胞が新しい骨を造る(骨形成)
  4. 休止期:骨表面が扁平なライニング細胞で覆われる
骨代謝回転



骨代謝マーカー 一覧

骨粗鬆症診療に用いられる骨代謝マーカーは、一部(骨マトリックス関連マーカー)を除き、骨形成マーカーか骨吸収マーカーのいずれかに分類されます。

骨代謝マーカー 一覧

*骨粗鬆症に対する保険適用(2015年3月現在)



骨代謝マーカーと保険適用

骨形成マーカーと骨吸収マーカーでは、骨粗鬆症診療において保険適用可能な条件が異なります。

骨代謝マーカーと保険適用

*骨粗鬆症に対する保険適用(2015年3月現在)



骨粗鬆症治療薬と骨代謝

骨粗鬆症治療薬には骨代謝マーカーによる評価が困難な薬剤(カルシウムやカルシトニン等)もありますが、原則として骨形成促進作用をもつ薬剤の治療効果は主に骨形成マーカーで、骨吸収抑制作用をもつ薬剤の治療効果は主に骨吸収マーカーで評価されます。

骨粗鬆症治療薬と骨代謝

*開発中(2015年3月現在)



骨代謝マーカー測定の目的

骨代謝マーカーは骨粗鬆症の治療において、主に以下の①~③を目的として測定されます。

  1. 治療薬の選択をサポート
    骨粗鬆症と診断された患者の骨代謝状態を評価することにより、適切な治療薬の選択に役立ちます。
    ※測定時期:治療薬の投与開始前
  2. 治療効果判定
    治療薬の投与前後でマーカー値がどの程度変化したかを調べることにより、治療の効果を評価します。
    ※測定時期:治療薬の投与前後
  3. 経過観察
    定期的なモニタリングにより、期待される治療効果が継続して得られているかどうかを確認します。
    ※測定時期:多くの場合、6カ月~1年程度の間隔で測定



骨代謝マーカー測定の意義

骨代謝マーカーの測定は、①治療の必要性に対する患者の理解をさらに高めたい場合、②薬物治療を予定している場合、③治療薬の選択に役立てたい場合、④骨粗鬆症の病態などを評価する場合に役立ちます。

骨粗鬆症はたとえ骨折があっても痛みなどの自覚症状に乏しく、薬物治療の途中で脱落する患者の少なくないことが知られています。骨代謝マーカーは治療の効果を早期から反映するため、医師から患者へマーカーの測定結果をいち早く伝えることは、患者の服薬遵守改善(動機づけ)につながると期待されます。

骨代謝マーカー測定の意義

参考資料・文献

  • 病気がみえる vol.3 代謝・内分泌疾患 第1版:株式会社 メディックメディア:203, 2002



IOF-IFCC方針書

2011年に国際骨粗鬆症財団(IOF)と国際臨床化学連合(IFCC)が合同で発表した方針書では、骨粗鬆症の介入研究や観察研究において血清P1NPと血清CTXをリファレンスマーカーとして使用するよう勧告されています。

※ リファレンスマーカーとは

骨粗鬆症治療薬の性能を評価するために実施される臨床研究(治験)でも、日常診療と同じくさまざまな骨代謝マーカーが測定されます。しかしもし複数の臨床試験で同じマーカーが測定されていなければ、マーカーを介した異なる治療薬の性能比較や、同じ治療薬について実施された複数の研究結果を統合してのメタ解析をすることができません。そこで比較や統合における共通の「ものさし」としてリファレンスマーカーを測定し、異なる臨床研究間の橋渡しの役割を担わせる必要があると考えられました。

リファレンスマーカー

※ リファレンスマーカー導入の目的

骨代謝マーカーに関するエビデンスの蓄積を促進することによって、日常診療でさまざまな骨代謝マーカーがもっと利用されるようになること、日常診療の質のさらなる向上を図ることが目的です。

※ リファレンスマーカー選択の理由

リファレンスマーカーに求められる特徴として以下の6項目が検討された結果、骨形成マーカーとして血清P1NPが、骨吸収マーカーとして血清CTXが選択されました。

  1. 特性がよく解っている
  2. 骨特異的なマーカーである(骨粗鬆症患者の骨折リスク予測にも用い得ることが望ましい)
  3. 測定試薬が広く(各国で)利用可能である(知財面では一社独占でないことが望ましい)
  4. 生物上・分析上のばらつき、検体の取扱いや安定性、測定の簡便さ等の実用面が検体検査に適している
  5. 日常診療(検査室)で利用可能である(自動化されていることが望ましい)
  6. 検体種は血液/尿のどちらでも構わないが、理想は血液である(個体内ばらつきが小さく、クレアチニン補正が不要なため)

※ その他の骨代謝マーカーの利用

各骨代謝マーカーは、それぞれ独自の特徴(長所)を持っています。臨床研究データの比較や統合のためにリファレンスマーカーを「含める」ことが推奨されているだけであって、日常診療と同じく臨床研究でも、必要に応じていかなる骨代謝マーカーを利用しても問題ありません。

※ 日常診療への波及効果

IOF-IFCCの方針書が発表された2011年以来、近年の治験で骨代謝マーカーが測定される場合は、骨形成マーカーとしてP1NPが、骨吸収マーカーとしてCTXが、きわめて高い頻度で用いられています。エビデンスレベルの高い治験データとしてリファレンスマーカーによる評価結果を常に参照できることは、日常診療においてもEBM(Evidence-Based Medicine)の観点から重要と考えられます。

参考資料・文献

  • CKD診療ガイド2012:日本腎臓学会編, 東京医学社:2012



骨粗鬆症と骨代謝の関係

骨粗鬆症は、骨の強度が低下して骨折しやすくなる病気です。

骨強度は骨密度と骨質からなり、骨密度(カルシウムやリン等のミネラル(骨塩)の量)は骨強度の約70%を説明するとされています。残りの約30%に相当する骨質は、骨強度に影響を与える骨密度以外の全ての要因ですが、そのうち骨代謝回転は骨代謝マーカーの測定によって評価することが可能です。

骨粗鬆症と骨代謝の関係



OCとは

オステオカルシン(OC)はBGP(bone Gla protein)とも呼ばれる骨基質タンパク質の一種で、成熟した骨芽細胞から分泌され、骨形成の後期(骨石灰化)を反映します。ヒトのIntact OCは全長49個のアミノ酸からなりますが、血中への放出後はおもに19-20位及び43-44位の2箇所が切断され得ることから、血中には様々な長さのペプチド断片が存在します。ECLIA法によるOCの測定ではIntact OC(1-49)に加えてN-MID OC(1-43)も検出され、Intact OCのみを測定する場合と比較して良好な検体安定性を示すことが知られています。

オステオカルシン(OC)



P1NPとは

Ⅰ型プロコラーゲン-N-プロペプチド(P1NP)は、骨基質タンパク質の主要成分であるⅠ型コラーゲンが前駆体のⅠ型プロコラーゲンから生成されるさいにN末端側から切断される分子量約3.5万のポリペプチドです。血中に放出されたP1NPは骨形成マーカーとして、骨形成を早期から鋭敏に反映します。ECLIA法によるP1NPの測定では3量体に加えて単量体も検出されます。

Ⅰ型プロコラーゲン-N-プロペプチド(P1NP)



CTXとは

Ⅰ型コラーゲン架橋 C-テロペプチド(CTX)は、破骨細胞による骨吸収のさい分解産物として血中に排出される、C末端側のテロペプチド断片です。β-CTx測定試薬中の抗β-CTx抗体は、C末端テロペプチド(α1鎖)のアミノ酸26残基のうち19番目のアスパラギン酸(D)がβ異性体に変化した8残基(EKAHD(β)GGR)をエピトープとして認識します。このβ異性体は年月の経過に伴なって増加し、骨組織におけるコラーゲン蛋白の老化現象を反映することから、β-CTxは骨吸収マーカーとして骨吸収抑制薬投与時の治療効果判定や経過観察に利用されます。

Ⅰ型コラーゲン架橋 C-テロペプチド(CTX)