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乳癌における診断は、知識こそ力に…

本記事は、ロシュダイアグノスティックス社メディカル・サイエンス・アフェアーズ部門のDenise Croix, Ph.D.が執筆しています。


進化する乳癌治療と診断技術

 

32年前に母が乳癌と診断されたとき、当時の担当医はタモキシフェンを処方しました。タモキシフェンはがん細胞を標的とする薬で、化学療法に伴う副作用がなく、当時、重要な先端医療の一つでした。しかし、医師は治療期間を定めていませんでした。つまり、その治療を一生涯続けるのか、10年間続けるのか、5年間続けるのか、決まっていなかったということです。当時は治療の選択肢がほとんどなかったため、母は乳房切除術も受けました。時は流れ、2016年に、母親側のいとこが乳癌と診断されました。この診断では、再発の可能性も考慮し、乳房腫瘤摘出術と放射線療法が施され、経口薬も併用されました。母といとこは二人ともがんサバイバーですが、現在利用できるようになった診断技術によって、いとこはよりスムーズに寛解に至りました。実際、乳癌の罹患率は過去20年間大きく変わらず2021年の米国における新規患者数は281,550例と推定されますが、死亡率は着実に低下しています。米国がん協会によると、乳癌の5年相対生存率は90.3%となります。

 

プレシジョン・メディシンの導入

生存期間の改善は、新たな治療薬の開発によるものですが、乳癌という複雑な疾患が、より深く理解されたこと、また分子レベルで乳癌を診断する技術が進歩していることも同じくらい重要な点です。乳癌のタイプとその発生部位をピンポイントで解明することにより、それぞれの患者さんに対して個別化医療、すなわちプレシジョン・メディシンを提供することできます。プレシジョン・メディシンでは、体内の遺伝子、タンパク質、その他の物質を特定することにより、それぞれの患者さんに合わせた治療を行います。すなわち、患者さんにとって、最適な治療法を選択し、一方で有益性の低い治療法を除外することも可能です。このように診断や治療の指針となるような遺伝子、タンパク質、その他の物質はバイオマーカーとよばれています。各患者において固有のバイオマーカーを特定することは、正確な診断の基盤となり、がんのタイプを正確に見極め、最も効果的な治療法を選択することへとつながります。 

 

乳癌のバイオマーカー

がん診断におけるバイオマーカーの役割を理解するには、がん細胞にみられる遺伝子の異常が重要となります。たとえば、遺伝子のコピー数が基準値を超える(増幅)、遺伝子によってコードされるタンパク質量が基準値を超える(過剰発現)、遺伝子のDNA配列に異常が認められる(変異)といった異常です。バイオマーカー検査では、遺伝子産物(タンパク質)、または病変組織の遺伝構成そのものを調べます。現在、乳癌では、主要な3種類のバイオマーカーである、エストロゲンレセプター(ER)、プロゲステロンレセプター(PgR)およびヒト上皮成長因子受容体-2(HER2)が約80%を占めています。ERとPgRは併せてホルモンレセプター(HR)と呼ばれています。 

  • HR陽性/HER2陰性は乳癌の68%を占め、生存率が最も良好であり、最も多くの治療の選択肢があります。 
  • 次に生存率が高いのは、HR陽性/HER2陽性で、乳癌の10%を占めます。腫瘍細胞上のHER2受容体を標的とする治療薬は数多くあります。 
  • 3番目に生存率が高いのは、HR陰性/HER2陽性であり、乳癌の4%を占めます。 
  • トリプルネガティブ乳癌(HR陰性/HER2陰性)(TNBC)は、乳癌の10%を占めており、生存率は最も不良となります。免疫チェックポイント阻害薬という新たな治療薬が、TNBC患者で利用可能となりました。 

 

バイオマーカー検査

 

乳癌バイオマーカーは、一般的に免疫組織化学的検査(IHC)で同定されます。この検査では、生検で採取した乳房組織中のタンパク質を検出・同定します。また、次世代シーケンシング(NGS)は、その他の潜在的な変異を同定するほか、再発のリスクを判定する場合に使用します。この他に一般的な診断ツールには遺伝子発現プロファイリングがあり、転移の可能性を評価する際に有用です。転移リスクが高い場合、より積極的な治療介入を検討する必要がでてきます。 

 

乳癌は早期診断が鍵

 

米国国立がん研究所によると、腫瘍が乳房内に限局している状態で発見された場合、現在の5年後生存率は99%です。腫瘍が局所リンパ節に転移すると生存率は85.8%に低下し、他の部位に転移した場合は29%まで低下します。これらの統計データは、定期的な検診が重要であることを示しています。近年、米国がん協会は、45~54歳の女性では年1回、55歳以上では2年毎のマンモグラフィー検診を推奨しています。高濃度乳房の女性に対しては、乳房デジタルトモシンセシス(3Dマンモグラフィー)という新しいマンモグラフィー技術が推奨されます。高リスク患者では、マンモグラフィーに加え、MRI検査を行う場合もあります。 

 

明るい未来

 

これまでの絶え間ない研究により、生存率が改善されてきました。しかしながら、これは医師が早期に正確な診断を下せることが前提です。がんの特性を分子レベルで明らかにする先進技術により、標的治療を行い、患者さんに積極的に治療を受けてもらうことで、さらなる生存率の改善に寄与しています。 

 

この記事は、Indiana Business Journalに掲載されています。

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