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婦人科系疾患

更年期障害

わが国においては、45歳以上の女性が全女性の約半数を占めており、この約80%が更年期症状、更年期障害を訴えているとの報告があります。更年期症状、更年期障害は単に閉経による女性ホルモンの低下だけによるものではなく、介護問題や夫の定年など外的ストレスも複雑に絡み合って発生するといわれています。 身体的な解決だけではなく、メンタルケアからのアプローチも必要となり、いかに女性としてのQOLを維持するかということが重要とされています。



更年期とは

更年期とは、月経が終わる閉経年齢をはさんだ前後10年間のことを指し、医学的には卵巣の機能が衰え始め、最終的にその機能が停止する時期のことをいいます。

日本人の閉経年齢は平均51歳ですが、個人差があり、早ければ40歳代前半、遅ければ50歳代後半になる例もあります。

閉経年齢

(小山嵩夫:1993より)



更年期症状と更年期障害

更年期症状は、更年期障害とよく混同されますが、厳密には異なっています。更年期に現れる器質的変化を伴わない不定愁訴症候群を更年期症状と呼びます。それに対し、日常生活に支障をきたすほどの不定愁訴症候群を更年期障害といいます。つまり、日常生活に支障をきたすか否かによって更年期症状と更年期障害は識別されます。

更年期症状、更年期障害ともに1~数年続きますが、多くは老年期に近づくとともに軽快します。

不定愁訴とは……

だるさ、肩こり、めまいなど複数のはっきりしない自覚症状だけで、その原因となる病気が発見できないもの。 その部位が移動したり、環境や天候などによって症状が一致しないことが多い。



更年期障害の臨床症状

狭義の更年期障害 臨床症状

血管運動神経障害
ホットフラッシュ(ほてり) 発汗 動悸

精神神経障害
不眠 興奮 苛立ち 頭痛



広義の更年期障害 臨床症状

脂質代謝障害
高脂血症 動脈硬化 心筋梗塞 脳血管障害

骨代謝障害
骨粗鬆症

更年期障害の臨床症状



更年期障害の発生機序

更年期障害の主因は卵巣機能低下によるエストロゲンの分泌低下です。

エストロゲンが低下することで、視床下部の機能が亢進され、自律神経中枢に影響を及ぼすとされています。

しかしながら、エストロゲンの分泌低下だけでなく、社会環境や個人要素、家族内問題や人間関係等の精神的ストレス(心理的要因)も複雑に絡み合って発症すると考えられています。

更年期障害の発生機序



エストロゲン低下により発症する疾患と病態

エストロゲンは、性器作用はもちろんのこと、多種の性器外作用も有しています。 特に、中枢神経系、脂質代謝系、骨代謝系への関与は大きく、エストロゲンの低下に伴って、様々な症状が発生します。

エストロゲン低下により発症する疾患と病態



閉経後の下垂体・性腺体系のバランス

卵巣の衰えに伴って、卵巣より分泌されるエストロゲン量が減少してきます。 その結果、下垂体へのネガティブフィードバックが解除され、FSH、LHは上昇してきます。

  • 20~30代
    エストロゲン:100pg/mL 以上 FSH・LH:10mlU/mL
  • 40代~閉経期
    エストロゲン:30~50pg/mL FSH・LH:徐々に上昇 卵巣の働きが急激に衰える
  • 閉経期以降
    エストロゲン:10~20pg/mL 以下 FSH・LH:40mlU/mL 以上
閉経後の下垂体・性腺体系のバランス
女性性ホルモン値の年齢推移



更年期障害の治療法

更年期障害の成立機序を考えますと、治療法は、薬物療法、心理療法、環境の改善となります。 特に、主因である「エストロゲンの分泌低下」を鑑みると、外因性エストロゲンの補充【ホルモン補充療法:HRT】は第一選択となる治療法です。

更年期障害の治療法



ホルモン補充療法(HRT)とは

更年期障害、閉経や卵巣摘出後にエストロゲンの欠乏を補う目的で外因性のエストロゲンやプロゲステロンを投与する治療法をホルモン補充療法といいます。

エストロゲンの分泌量



更年期障害と甲状腺

閉経後女性の2.4%は臨床的に問題となる甲状腺疾患患者であるとともに、23.2%は潜在性の甲状腺機能異常患者といわれています。

潜在性甲状腺機能異常患者のうち74%は機能低下症といわれていますので、計算上では、閉経女性の17%強が潜在性の甲状腺機能低下症ということになります。

甲状腺機能低下症と更年期障害の主要症状は類似しており、治療の選択において、2つの疾患を鑑別する事は極めて重要になります。 米国内分泌専門医会(AACE)では更年期症状患者には甲状腺ホルモン検査が推奨されています。

潜在性甲状腺機能の除外診断検査の流れ
甲状腺機能低下症と更年期障害の主要症状

不妊治療

1978年、世界で初めてのヒト体外受精による出生から生殖医療技術は進歩を続けるとともに、その治療を受ける患者は年々増加しています。日本産婦人科学会の集計では平成25年度の報告によると、現在わが国で出産する赤ちゃんの27人に1人はART(Assisted Reproductive Technology)で妊娠している状況です。

現在、日本国内におけます少子化問題は周知の通りであり、今後、不妊治療(生殖医療技術)の重要性は社会問題の観点からも益々高まってくるといわれています。



月経周期から妊娠におけるホルモン値推移

女性における月経周期の目的は、受精と着床の周期的な準備であるといえます。ヒトにおける月経周期は平均28日といわれており、月経初日を月経周期の第1日目と数え、おおよそ14日目に排卵されます。

不妊症の診断においては、月経2日目もしくは3日目の基礎ホルモン値(LH・FSH・E2・PROG)が重要視されています。FSHの刺激により卵胞が発育してくると、卵胞からE2が分泌され、血中E2値が上昇してきます。血中E2が一定の濃度に達した際、下垂体へのポジティブフィードバックでLHサージが起こり、ピークから約16時間後に排卵が起こります。

排卵後の卵胞は黄体化し、黄体細胞からはE2とPROGが分泌されます。分泌されたE2とPROGの働きで子宮内膜が肥厚化するとともに、着床への最適化が行われます。妊娠が成立しなかった場合、黄体は次周期開始の4日ほど前に退化しますが、それに伴ってE2とPROGの血中濃度も急激に低下し、子宮内膜は剥離して子宮外に排出されます。これを消退出血といい、いわゆる「月経」といわれるものです。

妊娠が成立した場合は、黄体は胎盤より分泌されるhCGによって刺激を受け、引き続きE2とPROGを分泌しますが、その分泌は徐々に黄体から胎盤へ移行していきます。

女性のホルモンと基礎体温の関係



不妊症とは

夫婦間において正常な営みを1年継続しても妊娠しない場合を不妊症と呼びます。また、不妊症は原発性不妊症(1度も妊娠しない)と続発性不妊症(前回の妊娠もしくは出産後の授乳期終了後、2年以上妊娠しない)に分かれます。不妊症の原因疾患は、卵管因子、排卵因子、子宮因子、免疫因子、男性因子、その他に大別ができますが、どこか1つでも問題があれば妊娠は成立しません。

WHOによる不妊症の原因男女比では、女性のみに原因があるケースは41%で、原因不明の11%を除く、48%は男性のみ、もしくは男性も不妊原因となっているとの報告があります。

WHOによる不妊症の原因男女比(WHO1996)



下垂体ホルモンと性腺ホルモン

内分泌のメカニズムは関係臓器とそれらから分泌されるホルモンの相互作用によって営まれています。各ホルモンの血中濃度を確認することが、診断と治療の第一歩になります。しかし、性周期によって血中ホルモン値はダイナミックに変動しますので診察時の血中ホルモン値を的確に把握することが、良質な治療につながります。

視床下部ー下垂体ー性腺のホルモンによる相互作用(女性)



不妊治療におけるホルモン検査

FSH

卵胞期初期の血清FSH濃度が高い(≧10mlU/mL)場合は卵巣の機能が低下していることが考えられ、徐々に成熟卵胞数も低下してくると推測されます。また、一般的に25mlU/mLを越した場合の妊娠はほとんど期待することができないといわれています。

逆に、FSHが低濃度(≦3mlU/mL)の時は、下垂体機能低下か視床下部からのGnRHの分泌低下が考えられます。

その鑑別にはGnRH負荷試験が行われ、GnRH投与後にFSH及びLHの分泌量の上昇が確認されると下垂体は正常で、視床下部の障害ということになります。

LH

卵胞期初期の血清LH濃度において、LH≧FSHとなった場合はPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)を疑います。

鑑別にはGnRH負荷試験を行いますが、PCOSの場合はLHのみが過剰反応を示し、血中濃度は5~10倍になります。

FSHは高くても3倍程度しか上昇しません。

プロラクチン(PRL)

卵胞期初期の血清PRL濃度が高値(≧30ng/mL)を示す場合は、高プロラクチン血症と診断されます。

高濃度のPRLは、視床下部においてPRL抑制因子でありますドパミンの産生を促します。

ドパミンはGnRHの分泌を抑制しますので、ゴナドトロピンの分泌が抑えられ、結果的に排卵障害をきたします。

エストラジオール(E2)

排卵期の血清E2値は通常50~550pg/mLとなりますが、低濃度(<50pg/mL)の場合は卵胞が成熟していないことを示し、卵巣機能異常が疑われるとともに、子宮内膜の増殖も不十分であると考えられます。この様な際には、FSH、LHの分泌が正常に行われているか確認の必要があります。

プロゲステロン(PROG)

排卵後7日~9日後の黄体期中期で測定し、10ng/mL以下の場合には黄体機能不全が考えられます。

黄体機能不全では、黄体期の短縮と、子宮内膜の分泌変化が起こらないことによる、着床障害を呈します。

テストステロン(TESTO)

造精機能障害の原因が精巣にある場合、FSHとLHは上昇し、テストステロンは低値化を示します。

視床下部―下垂体に原因がある場合ではFSH、LH、テストステロンの3項目とも低値を示します。

TSH・FT4

甲状腺機能低下症では、高プロラクチン血症を呈することがあります。甲状腺機能確認のため、TSH、FT4が測定されます。

不妊治療におけるホルモン検査



代表的な原因疾患

クラミジア感染症…卵管因子

自覚症状を認めないため放置されやすく、不妊治療目的で来院した時に発覚することもあります。卵管内腔が炎症によって障害を受けた場合には、卵管内で受精した受精卵が子宮まで運ばれず卵管内に着床することがあります(子宮外妊娠)。また、卵管内腔や卵管周囲に癒着が生じ、排卵された卵子を子宮まで運ぶことが出来ないために不妊となる場合もあります。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)…排卵因子

女性の約7~10%に見られるといわれています。主因はLHの過剰分泌で、排卵障害、希発月経を呈します。LHの作用によりアンドロゲン(テストステロン)が上昇し、声が低くなる、乳房が小さくなる、体毛が生える(多毛症)といった症状(男性化)を呈することもあります。

高プロラクチン血症…排卵因子

下垂体からのプロラクチン分泌が過剰になった状態で、無月経と乳汁漏出を呈します。原因には、プロラクチノーマ(プロラクチン産生下垂体腫瘍)、視床下部・下垂体障害、甲状腺機能低下症、薬剤服用等があります。甲状腺機能が低下しますと、視床下部からのTRH分泌が増加しますが、TRHは下垂体からのプロラクチンの分泌も促します。

子宮内膜症…子宮因子

子宮内膜症は異所性に子宮内膜類似の組織が発育する疾患と定義されています。疼痛、不妊を主とした臨床症状を認めます。

子宮内膜症はエストロゲン依存性疾患ですので、エストロゲンの多い性成熟期(20歳~30歳代)に好発します。血中CA125の上昇を呈する場合もありますが、感度、特異度はあまり高くありません。

高プロラクチン血症をきたす薬剤



治療について

不妊原因が確認されますと、まずその原因疾患の治療を行います。

しかし、患者からの挙児希望が強い場合や、原因疾患の治療によっても妊娠が成立しない場合は、配偶者間人工授精(AIH)、もしくは補助生殖医療(ART)を行います。ARTにはAIHよりも高度な体外受精-胚移植(IVF-ET)、卵細胞質内精子注入法(ICSI)、接合子卵管内移植(ZIFT)、卵管内配偶子移植(GIFT)が含まれますが、いずれにしても多数の良質な卵が必要となりますので、内因性のゴナドトロピン(LH、FSH)をコントロールして卵巣を刺激する、調節卵巣過剰刺激(COH)が行われます。COH中には下垂体ホルモン値と性腺ホルモン値をモニタリングし、適正な卵巣刺激を行うことが、安全に多数の良質卵を採集することにつながります。

また、子宮内膜の状態を把握して、タイミングよく胚移植(ET)を実施しないと着床率は低下しますので、ET実施前にも血清エストラジオール(E2)値と血清プロゲステロン(P4)値の確認が行われます。

施設や集計方法によっても変わりますが、ART実施の妊娠率は1回当り20%前後といわれています。

治療について



調節卵巣過剰刺激(COH)と胚移植(ET)

ART実施のためには、多数の卵が必要になります。そこで、多くの卵を採取するため、意図的に内因性のゴナドトロピン(LH、FSH)分泌を抑制し、その上でhMG(ヒト閉経期尿性ゴナドトロピン)の投与で卵胞を成熟させ、最後にLH様作用を持つhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を投与して多数の成熟卵を採取します。

この方法を調節卵巣過剰刺激(COH)と呼びます。内因性ゴナドトロピン抑制にはGnRHアナログを用いますが、GnRHアナログにはGnRH-アゴニストとGnRH-アンタゴニストがあり、GnRH-アゴニストを用いた抑制が一般的です。

GnRH-アゴニストは卵巣刺激を実施する前周期の黄体期中期頃から、hCG投与直前まで、継続投与される方法がよく用いられ、このプロトコールをGnRHアゴニスト-ロングプロトコールと呼びます。投与開始時から数日間はゴナドトロピンの上昇(フレアアップ)が見られますが、継続投与することで下垂体が脱感作し、完全にゴナドトロピンの分泌が抑制されます。この現象をダウンレギュレーションと呼びます。

COHによって採取された卵は、培養液中で配偶者の精子と混ぜ合わせられます(媒精)。しかし、高度の乏精子症や精子無力症では媒精しても受精卵を得られないことがあり、このような際は顕微授精(卵細胞質内精子注入法:ICSI)が行われます。

受精後、受精卵は2日から5日間培養され、移植用チューブを用いて子宮内に移植されます(ET)。ET実施後、約2週間で尿中または血中のhCGが検出されれば妊娠していると判定されます。

long protocol法



卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

COHによって、子宮内の多数の卵胞が同時に発育し、卵巣腫大、腹水や胸水の貯留、血液濃縮などをきたす病態を卵巣過剰刺激症候群(OHSS)といいます。

重篤な場合には、卵巣が茎捻転を起こし、急性腹症を呈することがあり、この場合は手術が必要となります。

また最重篤症例では、脳梗塞、急性肝不全、急性呼吸促迫症候群やDICを呈することもありますので、早期発見と早期治療が重要となります。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に対するCOH時に発生しやすいといわれています。

多嚢胞性卵巣症候群



多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とLH/FSH比

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、特有の臨床症状と特徴的な卵巣の形態変化に加え、多彩な内分泌・代謝異常を備えた症候群です。

PCOSには特有の効果的な治療法があることや、健康管理の重要性が明らかになり、近年PCOSを診断する重要性が増しています。2007年には日本のPCOS診断基準が改訂され①月経異常、②多嚢胞性卵巣、③血中男性ホルモン高値またはLH基礎値高値かつFSH基礎値高値となった際、PCOSと診断されます。

エクルーシス試薬を使用した際のPCOSのLHの閾値は、正常女性の卵胞期の平均値+1SDから8.55mIU/mLと算出されました。同様にLH/FSH比も解析したところ、1.25と算出されました。男性ホルモン(テストステロン)の正常女性上限値は0.47ng/mLとなっています。

正常女性の排卵期LH濃度分布
エクルーシス試薬を用いたPCOS診断における基準値

第54回 日本生殖医学会モーニングセミナー
「多嚢胞性卵巣症候群の診断とホルモン測定上の注意点」