近年、癌の外来化学療法に対する期待がますます高まっています。Quality of Life (QOL)を重視する患者にとって、入院せずに仕事や家事などの日常生活を送りながら癌の治療を継続できることは大きな利点であり、現代の社会情勢にマッチしていると言えます。抗癌剤や支持療法薬の進歩、平均入院期間の短縮に応じた病院へのインセンティヴ支払いや外来化学療法加算の制度化が、普及を後押ししています。
化学療法には、手術により切除できない進行・再発癌を対象とする延命や緩徐を目的とした化学療法と、術後の再発抑制を目的とした術後補助化学療法のふた通りがあります。大腸癌の化学療法においては、ともに腫瘍マーカーCEAの測定による治療効果モニタリングの有用性が認められ、推奨されています。
大腸癌(結腸・直腸癌)の術後サーベイランス
進行・再発大腸癌の化学療法
EGTM(European Group on Tumor Markers)によるガイドライン「治療効果の指標として最低3年間、2~3ヶ月毎にCEAを測定すべきである」
(Duffy MJ, et al.: Eur J Cancer. 43(9): 1348-1360, 2007)
大腸癌の術後補助化学療法
大腸癌研究会編: 大腸癌治療ガイドライン「サーベイランス期間は術後5年間を目安とし、術後3年以内はサーベイランス間隔を短めに設定する」「腫瘍マーカーはCEAおよびCA19-9を測定する」
(2016年度版、金原出版株式会社)
エクルーシス試薬CEAⅡを用いたときの悪性腫瘍群260例、良性疾患群150例、合計410例における血中CEA測定値の分布を以下に示します。悪性腫瘍では、大腸癌、乳癌、胃癌、肺癌、食道癌などで上昇を示す症例が多く、一方、良性疾患では特に肝硬変や肝疾患において上昇を示す症例が多くありました。CEAは、癌の早期診断には難しいが、癌患者で術前のCEA値が正常であっても再発時には陽性となることが多いため、術後フォローアップには重要なマーカーです。また、化学療法においては、2-4週間毎の反復測定によるCEA値の変化を調べることより治療効果を推定することができます。
(自社データ)
各疾患群におけるCEA測定値の分布
(自社データ)
術後再発率は病期により異なります。大腸癌の場合、大規模臨床試験の結果から、Ⅲ期の術後に化学療法を実施する場合としない場合とでは、生存率に差が出ることが知られています。大腸癌治療ガイドライン(大腸癌研究会編、2016年度版)によると、Ⅲ期および再発率の高いⅡ期の一部には術後補助化学療法を適用するのが原則です。
分子標的薬をはじめとする近年の抗癌剤の開発は目覚ましく、薬剤の組み合わせや投与期間を工夫する事で、より治療効果の高いレジメンが模索されています。2005年から進行再発大腸癌の治療に使われ始め、現在では標準法として定着しているFOLFOX療法は、2009年から術後補助化学療法にも適用可能となり、選択肢がさらに広がりました。癌組織の再発・転移に対応してレジメンを素早く切り替えるには、腫瘍マーカーの測定による定期的なモニタリングが欠かせません。血中CEAは治療効果を反映するため、エクルーシス試薬CEAⅡは大腸癌のモニタリングに適しています。
患者の治療方針は、来院当日の診察、および当日採血された検体を用いて測定された腫瘍マーカーをはじめとする臨床検査の分析結果をもとに決定されます。来院患者を長く待たせることなく治療を開始するためには、検査が短時間で終了し、結果が迅速に報告されることが重要になります。
当日中に結果を説明した上で文書により情報提供し、結果に基づく診療が行われた場合に、5項目を限度として検体検査実施の各項目の所定点数にそれぞれ10点を加算する。
専用の治療室を備え、専任スタッフ(医師、看護師、薬剤師)が常勤している事など、国の定める基準を満たす認定された施設が外来化学療法を行った場合には、診療報酬が加算されます。加算点数は右表のように決められており、加算1と2の違いは、専任スタッフの経験年数や、化学療法レジメン※1を評価、承認する委員会設置の有無によります。
(2012年診療報酬改定・現在)
抗がん薬治療では副作用マネジメントが重要となります。薬剤の作用機序や薬物動態を正しく理解することは、副作用の適切な対処につながります。特に、最近登場した免疫チェックポイント阻害薬の副作用は、体内の多岐にわたる場所で起こる可能性があります。これまでの抗がん剤とは異なり、投与10ヵ月後など有害事象がかなり遅れて発現するケースも報告されています。甲状腺機能異常や下垂体機能低下などホルモン異常による倦怠感なども、見逃さないよう注意が必要です。
(Mebio. Vol.33, No.6, 13-23, 2016およびがん免疫療法ガイドライン)
免疫チェックポイント阻害薬に伴う免疫関連有害事象(Immune Related Adverse Event;irAE)として、胃腸障害、肝障害、皮膚障害(中毒性皮膚壊死症を含む)、神経障害、内分泌障害(甲状腺機能低下、副腎不全、下垂体炎)などが生じます。
irAEが生じた場合は、原則的にGrade 2以上となった場合には、治療を中断し、全身ステロイド投与を検討/開始することが推奨されます。
irAEは治療中に発症しますが、少数例では治療終了後数週間から数ヵ月後に発症するものもあり注意が必要です。
免疫チェックポイント阻害剤による肝障害は、5%未満で認められ、Grade 3以上の重篤なものは約1%で認められます。肝・胆・膵障害で最も多いものは、自己免疫性の肝障害です。抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体を投与する際には、肝機能(AST、ALT、T-Bil、D-Bil、γ-GTP、ALPなど)を定期的にモニタリングする必要があります。
もし、これらに異常値が認められた場合、HBV、HCV関連の検査、抗核抗体、抗ミトコンドリア抗体、腹部CT、腹部超音波検査などを行い、感染症、薬剤性、原疾患の悪化、アルコールなどによるものを除外する必要があります。
頻度は高くないですが、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体いずれにおいても無症状性のアミラーゼおよびリパーゼの上昇が認められることがあります。
症状性でGrade 3以上のアミラーゼ、リパーゼの上昇が認められた場合には、投与を中止し、消化器内科専門医と協議したうえで膵炎に対する治療が必要と考えられます。
免疫関連肝障害の管理
免疫関連膵障害(アミラーゼ、リパーゼ上昇)の管理
免疫チェックポイント阻害剤投与に伴う内分泌障害の中では、甲状腺機能障害は最も頻度の高い有害事象です。自己免疫反応による甲状腺細胞破壊が原因と考えられています。
多くのirAEが、抗CTLA-4抗体でより高頻度に生じますが、甲状腺機能低下症に関しては、抗CTLA-4抗体では約2%に対して、抗PD-1抗体では8.3%と報告されています。発症までの時間は、抗PD-1抗体の臨床試験において0.7週間~19ヵ月でした。
投与開始前および投与期間中は、定期的なTSH、FT3、FT4等の測定を実施し、異常が認められた場合には、必要に応じて内分泌専門医と連携し、適切な処置を行うことが推奨されます。
甲状腺機能低下症の場合は、TSH上昇、FT3低下、FT4低下、コレステロール上昇、CK上昇などを認めます。
甲状腺機能亢進症の場合は、TSH低下、FT3上昇、FT4上昇、AST上昇、ALT上昇、ALP上昇、コレステロール低下などを認めます。
非小細胞肺癌(扁平上皮/非扁平上皮)
免疫関連甲状腺機能障害の管理
日本人に生じる肺腺癌の約半数には受容体型チロシンキナーゼであるepidermal growth factor receptor(EGFR)をコードするEGFR遺伝子に機能獲得性突然変異が確認されています。
EGFR遺伝子変異陽性肺腺癌細胞は、突然変異により恒常的に活性化したEGFR signalingに依存して生存・増殖していると考えられています。変異のhot spotであるexon 19の欠失変異や exon 21のL858R点変異が確認されたEGFR mutant肺腺癌の約7割は、EGFR tyrosine kinase inhibitors(TKIs)治療に一旦は反応し縮小します。
EGFR遺伝子変異陽性進行肺腺癌のEGFR-TKI療法後の耐性機序の約5-10%で小細胞がんへの形質転換が知られています。最近、小細胞癌への組織型の転換を認めたEGFR-TKI耐性症例において、小細胞癌の標準化学療法に治療を変更して、奏効した症例が報告されています。
しかし、小細胞がんへの形質転換を確認するため、耐性時に生検を行うことは通常困難であり、この新たな耐性機序をより簡便な手法で検証する必要があります。
ProGRPやNSEは、小細胞肺癌に対し、感度、特異度ともに優れた腫瘍マーカーとして利用されています。ProGRPやNSEが、EGFR-TKIs耐性時の小細胞肺癌への転換を検出できる有用な方法となる可能性を示す結果が報告されています。
小細胞がんへの形質転換推定モデル
(Lancet Oncol 2015; 16:e165–72)
EGFR-TKIs治療におけるCEA、ProGRP値、およびCT画像
(Lung Cancer 2013; 82: 370-372)